「早すぎる」はない!
低学年から始めることで
良いことがいっぱいです
佐藤 久美子
玉川大学・大学院 名誉教授
長年にわたって、子どもの言語獲得や言語発達の過程などの研究に取り組んできた佐藤久美子先生。小学校英語のカリキュラムや教材作成を行うかたわら、各地を飛び回り、先生に向けた研修講座を数多く行っています。
今回はキソサポの教材開発にもご協力をいただいた佐藤先生に、小学校低学年の英語教育の話を中心に伺いました。
低学年の児童に向けた英語教育のあり方
■何歳から英語を学び始めるのがよいのでしょうか?
小さい子どもは音を聞き取ることがとても上手です。しかも声に出す練習を楽しみながら繰り返しすることができる。また、どうしても年齢を重ねていくと言葉の「意味」を気にしてしまう傾向が強くなりますが、そのようなところにつまずくことなく、素直に英語を吸収できるということは英語を学ぶ上でとても役に立ちます。
何歳からがよいか、ということに明確な答えはありませんが、そういう意味では小学校に入る前からなんらかの英語に触れておくことは小学校へのブリッジの役割も果たし良いことだと思いますし、小学校の英語教育ということで考えれば、低学年から英語を学び始めるということはとても良いことだと思います。
よく「日本語(国語)を勉強しはじめたばかりの小学生に英語の勉強は早すぎる」という声を聞くのですが、意味の区別に必要な母語の音は1歳前後で獲得が完了していますし、母語の文法についても小学校に入る頃までには獲得が完了しているので、第二言語の学習について「早すぎる」ということはありません。
■小学校低学年から英語教育を扱う学校も増えてきましたね
そうした英語教育を行っている現場に足を運ぶことがよくあります。実際、1年生から英語教育を始めた学校の児童たちをみていると、3年生以降の英語力の伸び方が違うと感じます。また、低学年から英語に触れるということで、英語そのものの理解はもちろんのことですが、外国の文化やルールなどの多様性についても自然と受け入れることができるようになるのではないかと思います。
低学年の英語の授業は、担任の先生が行うことが一般的ですが、小学校でも中学校でも高校でも、英語教育の根底にあるのは「言語活動」です。実際に英語を使用してお互いの考えや気持ちを伝え合う活動を通じて、コミュニケーションを図る素地・基礎となる資質や能力を育成することを目指すわけです。低学年からそうした目的のもとでしっかりと指導をしていくことが大事です。
■どのようなことを意識して指導にあたればよいでしょうか?
「暗記をさせようとせず、まずは楽しく英語に触れてもらう」ことを意識しましょう。あとは先生が苦手意識を持たないようにして欲しいですね。先生の気持ちはどうしても子どもたちに移ってしまうので、英語が得意ではない先生は子どもたちと一緒に勉強してみようという意識で英語に向かうと良いでしょう。あまり英語の発音が得意ではない先生も気にしなくて大丈夫です。そのためにALTの先生がいてくれたり、動画や音声の教材があるのですから。
ただし、低学年だからといって楽しいゲームに終始するというのは避けて欲しいと思います。授業を好きになってもらうためのきっかけとしての言葉のゲームはどんどん取り入れて欲しいのですが、そのゲームを通じて楽しく遊ぶだけではなく、あくまでも「言語活動」を意識して、「I like apples.」のような簡単な英語の文でいいんですが、児童たちに自分の言葉で自分の考えを表現させることを目指して欲しいと思います。アウトプットは言語習得の過程においては欠かせない作業です。
キソサポのコンテンツを低学年の児童にも
■低学年の児童におすすめの動画はありますか?
「Tell Us About You!」はおすすめです。これは実際の英語圏の人たちが話しているのでとても興味深いです。同じ名前を紹介する場合でも、フルネームを言う人もいるし、ファーストネームしか言わない人もいます。このように名前を言うだけでも様々なバラエティがあることがわかれば、英語は暗記するものではない、ということがだんだんとわかってもらえるのではないかなと思います。
動画を見た後に、気がついたことを話し合うというのも良いでしょう。例えば出てくる人たちの格好から季節を連想させることができます。動画を見た後に「Is it spring?」のように聞くことで自然と英語の単語を導入させることができますよね。例えばさらにそこから「What season do you like?」に発展させることもできるでしょう。
また動画は再生を止めることで絵本のように使うことも出来ます。実際に動画の中に見えているものについて「What color is it?」だったり「What’s this?」のように問いかけてやりとりすることで、目標表現を自然に言えるようにもっていくことも出来ます。
これらの動画を通じて「英語は暗記科目ではない」ということを児童に気づいてもらうことが大事です。英語はコミュニケーションのツールですから、単語や文などを一方的に教え込むだけではなく、動画を参考にしながら先生と児童だったり、児童同士だったりでお互いに英語を使ってコミュニケーションをとってみる、ということをぜひしてみてください。「Good!」と褒め合うだけでも自信につながります。
■絵カードメーカーは授業でどう活用できますか?
自分の言葉で自分の思いや考えを表現させる、という最終的な目標にむけては、もちろん単語やフレーズを覚えて定着させる必要もあります。そのときに絵カードメーカーのコンテンツを使って、チャンツで楽しくリズミカルに練習するとよいでしょう。
たとえば「I like ~.」という目標表現を扱う授業の場合、絵カードメーカーで好きな単語を選んでフラッシュカードを作成します。「リズムを再生」を押せばちょうどチャンツの練習に使えるリズムが流れてきますので、それにあわせて楽しくリズミカルに「I like oranges.」「I like grapes.」のように発音練習していくと良いでしょう。最初から文で練習するのが難しい場合は単語だけから初めて、次第に文に挑戦しましょう。これを繰り返しているうちに児童たちは自分から好きな果物が言えるようになっていきます。
また、小学校1年生からでも簡単な単語を書いていく練習をして欲しいと思っています。フラッシュカードは児童の端末にも共有することが出来ますので、児童たちは手元に大きく絵カードを表示した状態で、単語を書き写す練習ができます。中学校以降の英語教育のことを考えると小学校の低・中学年のうちから文字やフレーズ、文を書くことにも慣れておくことが大事だと私は考えています。もちろん、負荷のかけ過ぎはよくないので、まずは1日1単語、1文のようにコツコツとしていくのがポイントです。
先生方にメッセージをお願いします
英語の授業に苦手意識を持っている先生方もいらっしゃると思いますが、「キソサポ」にはしっかりと先生をサポートするようなコンテンツが揃っていますので、うまく活用しながら安心して授業を進めてほしいと思います。教材の準備が不要なことも大きな味方です。
先生に心がけて欲しいのは、児童たちが英語を好きになれるような教室の雰囲気作りです。児童が自分から楽しく英語を話すようになってくれば、自然と英語は身に付いていくでしょう。先生も「Nice!」とか「Good job!」とか簡単な英語でいいのでリアクションを交えながら児童と一緒に英語を楽しみましょう!
佐藤久美子
玉川大学・大学院 名誉教授。言語心理学、英語教育専攻。
各地の教育委員会の要請をうけて小学校英語のカリキュラムや教材の作成を行うほか
教員を対象にした研修講座も各地で行っている。
また、NHKラジオの「基礎英語」の講師やEテレ「えいごであそぼ」
Eテレ「エイゴビート」シリーズの総合指導、監修などを担当。
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